ホーム ≫ 【本の紹介】『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)

【本の紹介】『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)

【本の紹介】『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)

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『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)  

 

【まとめ】

今年4月のパナマ文書漏洩事件を受け、翌月5月に出版されたパナマ文書解説本。

著者はこの問題を長く研究している経済評論家で、

国際的な租税回避問題の経緯・背景をコンパクトに、しかし急所を抑えることができる。  

 

今年も残すところあと2ヶ月となりました。

1人の会計事務所職員として2016年を振り返るならば、 今年はリオ・オリンピックの年ではなく、

「パナマ文書」の年だった、というべきなのでしょう。

今回はこの「パナマ文書」に関する本を紹介します。

 

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『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)  

 

パナマ文書とは、パナマにある「モサック・フォンセカ」(Mossack Fonseca)という法律事務所によって

作成されたもので、 これにはこの事務所が関わる1970年台からの40年にもおよぶ、

オフショア金融センターを利用する企業や人の取引情報が記載されています。

漏洩したのは4月ですが、この本の出版は5月。

いくらなんでもこの出版は早すぎる!…と思っていましたが、それには理由がありました。

著者の「おわりに」から引きます。

 

 パナマ文書が報じられた際の私の印象は「何を今さら、でもついにやるのか」であったといえる。メルマガの情報発信と著作の情報集めのため、日々、海外メディアソースとOECDやG20などの声明やレポートなどを定点観測してきた私にとっては、すでに古い話であったのだ。であるから、FATFなどの規制強化は過去の著作に頻繁に出てきた話なのである。

 

   じつはこの問題、2008年のリーマンショック前後から対策が進められており、2013年7月19日にOECDが「税制の隙間を塞ぐ:OECD、税源侵食と利益移転に関する行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)を開始」と発表した時点で答えが見えていたからである。しかし、一気に進めれば経済的マイナス影響も強くなるため、段階的に進められてきただけなのである。 (本書203頁)

 

 世界的な趨勢としては、このような情報がいつ流出してもおかしくない状況だったようですね。

ここまで言い切ってしまうだけあって、本書はコンパクトにこの問題の背景・経緯がまとめられており、

短時間で学ぶことができました。

 その一方で、「ダブル・アイリッシュ」「ダッチ・サンドイッチ」などの具体的な租税回避の方法についての

簡単な説明もあるため、この問題についての基本的な知識を得ることができます。

 

 パナマ文書の漏洩が重要なのは、

この文書の内容が単に租税回避のスキャンダルに係るものだからでなく、

国際的なマネーロンダリング問題、特にテロ資金供与についての情報だからです。

この方面については、1989年の設立以来、

FATF(金融活動作業部会:Financial Action Task Force on Money Laundering)が

くり返し各国に情報公開などの勧告を行ってきました。

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<FATFの勧告、イメージ>

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、日本でも水面下では問題になっていました。

有名なところでは、武富士の相続税問題。  

 

 武富士元会長が「ダッチサンドイッチ」と呼ばれる手法により、

1998年に行った相続税の租税回避行為について、 国税庁が最高裁で敗訴(2011年)した事件です。

これ以降、法律が大きく改正され、逃げられない仕組みが構築されつつあります。

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逃げられないゾ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえば、2013年末以降、毎年12月31日時点で5000万円をこす海外資産を持つ個人は、申告義務を負うようになった。申告漏れが見つかったり、国外財産調書に記載がない場合には加算税の課税率が5%高くなる。また、虚偽記載や意図的に提出しなかった場合などには、1年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。もちろん刑事罰であるから、罰金は軽くても家宅捜査の対象となりうる。  

 

 さらに、2015年7月1日からは、国外転出するときに1億円以上の有価証券などを所有している者は、その含み益に所得税の課税が行われることになったため、確定申告が必須となった。また、同じく1億円以上の有価証券などを所有している資産家が、国外に居住する親族などに有価証券等の贈与を行う場合にも、課税対象となることが決まり、確定申告の義務が生じることとなった。 (本書29, 30頁)  

 

 とはいえ、日本のメディアではほとんど報じられておらず、大手の新聞社でも2015年ころまで仲介する法律事務所の提灯記事を書いており、これと並行して一部のコンサルタントなどが相続対策と称して、顧客の無知を利用しタックスヘイブンを利用したスキームを高い値段で売りつけていたわけである。  

 

 本書で述べているように、タックスヘイブンを利用した租税回避は2014年の確定申告から海外資産5000万円以上の申告義務が始まり、2015年7月に「国外転出時課税制度」(通称、出国税)が開始された時点でスキームとしては終わっている話でしかない。 (204頁)

 

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終わってるゾ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個人的には、国内動向が世界の動向の影響を受けていることが興味深かったです。

近年の税制改正が、「発展・拡大」の方向ではなく、

「インバウンド・囲い込み」の方向を向いていると感じていましたが、

FATFのような世界的な動向を知り、深く納得しました。

BEPSの問題に取り組むためには、まず国内の資産・所得を把握することが必要ということでしょう。

近年、富裕層への監視が強化されているのもこれを裏付けていると思われます。

本書と合わせて、 志賀 櫻氏の『タックス・ヘイヴン -消えていく税金』(岩波新書、2014)なども合わせて読むと、

この問題について理解が深まるのではないでしょうか。 

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志賀 櫻氏の『タックス・ヘイヴン -消えていく税金』(岩波新書、2014)

 

(スタッフ: 佐藤 龍)

『知って得する相続税』反響が続々!

 

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【お客様の声!】
『知って得する相続税』、おかげさまでご好評いただいております。
さらになんと! ご購入いただいた方から、嬉しいお声を頂きました!
本当にありがたいお声です。
この本でお伝えしたかったことが、しっかりと伝わっていることが感じられて、本当に嬉しいですね。
ありがとうございました!

 

〔いただいたコメントの内容〕
「税金は難しいというイメージがあり、勉強を始めようとおもっても、ついつい途中で挫折してしまうその繰り返しでしたが、この本は税金の成り立ちや背景から分かりやすく説明されており、非常に身につくような構成になっています。ありがとうございました。」
「簡潔でありながらも具体的に記載されているので、今まで勘違いしていた点に気づくことができたり、新たな気づきがあったりで、楽しく読むことができました。最終章の「税務調査の実際」は、なかなか興味深かったです。わからなくなった時に、さっと見返したらすぐに理解できる、そんな便利な1冊だと思います。」

【本の紹介】【判例】「長崎生保年金二重課税事件」のインパクト

江崎 鶴男

 

 

皆さんこんにちは。

東芝の「不適切会計」事件には驚きましたね。
会計業務に携わるものとして、襟を正す思いです。

脱税・粉飾は確かに大きな事件ですが、租税法には、それ以外にも重要な判例があります。
今回は、そのうちの一つ、「長崎生保年金二重課税事件」を紹介します。

(原審)長崎地裁:平成18年11月7日、福岡高裁:平成19年10月25日、最判:平成22年7月06日

 

 

今年の平成27年の1月1日から、基礎控除額の引下等が盛り込まれた改正相続税法が施行され、

世間では去年から相続税の話題が盛んです。
相続で不動産を取得したときには「時価」で評価されて相続税が課せられて、
その不動産を売却(譲渡)したときも「時価」でその不動産を評価して所得税が課せられます。

さて、皆さんは不思議に考えたことがありませんか?
これは相続税と所得税の二重課税ではないのか、と。

この問題について、租税法では、次のような関係になっています。

 

被相続人死亡時  →  相続税 (一時・偶発的な所得に対する課税。所得税は非課税)

物件売却時    →  所得税 (譲渡所得…被相続人の取得時からのキャピタル・ゲインに対する課税)

 

つまり、相続時に取得した財産に対する所得税は非課税とされており(9条1項16号)、

二重課税にならないような課税体系が構築されていることがわかります。

 

ところが、この体系からこぼれ落ちる課税関係がありました。

それが「年金特約付き生命保険」、一般的に「相続等年金」と呼ばれているものです。

一連の裁判では、この「相続等年金」の毎年の「受取額」と「元本部分の金額」の差額への課税関係が争われました。

結果、国税庁は過去30年にわたって行われていた、毎年の年金額を雑所得の課税対象とする取扱いが誤りであったことを認めました。

実務的な対応として、 最高裁の判例通り、差額部分の一部のみを課税対象とし、

改正法施行日から過去10年分の還付を認めるという、異例の措置が取られたのです。

 

正確には、「更正の請求」の規定通りの5年間に、

「特別還付金」として5年間の請求可能期間(平成12年分~平成17年分)が加えられました。

ただし、この「特別還付金」の請求期間は、改正法施行日の1年後である平成24年6月29日までとなっていますので、

平成27年7月現在では請求は不可能となっております。 ご注意ください。

【参考情報】 特別還付金の支給制度等について(国税庁) 

 

この事件及び判例は、2つの意味でとても大きな事件であると考えられます。

1つ目はその内容です。

上記のように、この裁判は所得税法9条1項16号の解釈に新たな光を当て、

相続税と所得税の関係についての根本的な理解の再考を促しました。
この事件は当時も非常に大きく扱われ、法律雑誌「ジュリスト」でも特集が組まれたほどです。

 

『ジュリスト 生保年金二重課税判例のインパクト 2010年 11/1号』、有斐閣

ジュリスト

ジュリスト、初めて買いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つ目は、原告の立場、裁判の進め方です。
これほどの大きな影響のあった裁判ですが、原告は長崎の一主婦である相続人で、

220,800円の年金の源泉徴収額をめぐるものでした。

当裁判の補佐人となった税理士はその相続を扱った税理士で、税務訴訟専門の事務所のような、数十人の弁護士・税理士が所属するような大きい事務所ではありません。そんな中、担当税理士が「税理士補佐人制度」を積極的に活用して、最高裁の判例まで辿り着いた事件でもあります。
この裁判の過程は実にドラマチック。

最高裁判決に至るまでの逆転劇、市井の税理士の情熱、原告の税理士への信頼などは、

話としても実に興味深いものがあります。
これについては、担当税理士自らの筆によるこちらの本があります。

 

『長崎年金二重課税事件―間違ごぅとっとは正さんといかんたい!』、江崎鶴男、清文社、2010年
(何回読んでも、サブタイトルを正しく書くことができません・・・)

江崎 鶴男

「逆転勝訴」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように、大規模な粉飾や脱税事件ほどの派手さはありませんが、

租税法の事件・判例は、時に一般市民のオカシイ、という判断が、

それまでの慣例を覆すことがよくあります。

このような判例を学ぶことが税務訴訟を学ぶ醍醐味である、と言えます。

 

最後に、所得税法を課税実務からでなく、法律の面から解説する本として、

次の本を紹介します。

 

 

『弁護士が教える 分かりやすい「所得税法」の授業』、木山博嗣、光文社新書、2014年

木山博嗣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この本には、「長崎生保年金二重課税事件」以外にも興味深い判例がたくさん挙げられており、

実際にあった判例を考えながら所得税の課税体系を学ぶことができる本です。

「トクする/ソンする」といった、単なる節税面からではなく、

所得税法を理論的に考えたい方への入門書としてオススメいたします!

【スタッフ 佐藤龍】

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