『私たちはなぜ税金を納めるのか ―租税の経済思想史』、諸富徹、新潮選書、2013年
私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)
【まとめ】
経済学者による租税思想史。
実務への即効性はないが、世界史をたどりながら税制の成立・根本を理解することができる。
【 難波事務所 ある日の昼休み 】
あれ、佐藤さん、なに読書なんてしてるんでスか?
読書なんて健康に悪いですよ~。秋なんだからカラダ動かさなくちゃ。
余計なお世話だよ。
松永さんこそ、若い時に本を読む癖をつけとかないと
取り返しがつかないことになるぞ。
まあ、せっかくだから、いま読んでる本を簡単に紹介しとこうか。
この本、知ってる? 結構話題になったから、読んだことはなくても題名は耳にしたことないかな?
私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)
『私たちはなぜ税金を納めるのか』・・・
・・・見たことあるような無いような・・・
いや、確かに題名はどこかで聞いたことがあるような気もしないわけじゃありません。
・・・つまり知らないってことね。
ビジネス関係のメディアはもちろん、
一般書のコーナーでも折に触れて取り上げられてたよ。
新聞の書評でも取り上げられてたと思うけど。
ふ~ん。なんででしょうね。
出版のタイミングもよかった、というのは大きいと思うな。
去年の2013年とは、消費税8%への増税を目前に控え、
相続税増税が巷の話題に上り始めた時期。
この本が売れたのは、世間の税一般への関心が高まってきた、そういう背景もあっただろう。
あと、文章が読みやすいんだよね。
学者の先生が書いた学術書だし、内容も節税とか実務とは直接関係ないんだけど、読みやすい文章なんだ。
でも、『私たちはなぜ税金を納めるのか』って・・・
・・・義務だからでしょ? 佐藤さん、そんなのも知らなかったんすか?
話はそんなに簡単じゃないぞ。
それなら「なぜ税金を納めなければならないのか」になるはずでしょ。
で、まさにこの本の主題はそこなんだ。納税は「権利」なのか、「義務」なのか。
うわー、「国民ひとりひとりが納税者意識をもて」とかそういう話ですか?
そういうの面倒だからいいですわ。
会計事務所の仕事とは関係ないような・・・。
顧問先にとっては、抽象的な理想論を訴えられるよりも、
実務の処理を正確に素早くこなしてもらう方がうれしいんじゃないですかね。
それはそのとおり。
でも、難波所長もよく雑談で話してるじゃない。
「相続税は日露戦争の戦費調達が目的で導入された」とか。
正しい処理だけじゃなくて、税金について幅広い話題を提供するのもお客様に喜ばれると思うけどな。
ところで、国民の3大義務って知ってる?
バカにしてるんでスか、佐藤さん。
「勤労」、「教育」、「納税」。
それくらい知ってますよ。
そんなにイバラれてもなあ。
「教育」は、正しくは「こどもに教育を受けさせる義務」だけど。
さすが小中学校で習ったことはよくおぼえてるね。
義務と権利の対応関係からわかるように、一応納税は「義務」とされている。
しかし、世界の税制の歴史を見てみると、これは「権利」としての側面も色濃くある、というのがこの本のテーマなんだな。
それは、この本の題名が「納めなければならないのか」でなく、「納めるのか」となっているところに端的に表れている。
相変わらず細かいな~。
【章の構成・内容の概観】
で、「第一章 近代は租税から始まった」。
近代の始まりは租税の始まりと同義と言えるんだけど、
そもそもの始まりはイギリスに遡る、と。
「マグナ・カルタ」でしょ!
初めて聞いたとき、でっかいカルタを想像しちゃいましたよ。
「マグナム・カルタ」。なんちゃって。
・・・イギリスとドイツの対比は面白い。
「納税」とは、市民革命後のイギリスでは「権利」だけど、
19世紀のドイツでは「義務」と考えられることが多かった。
日本の税制はドイツを模範にしているから全体国家的要素が色濃くある、
とはよく言われることだけど、そのあたりも「第二章 国家にとって租税とは何か」で説明される。
ちょっと脱線するけど、「ドイツの税制」というと、泣く子も黙るTKCの創始者、飯塚毅先生のことを連想するね。
日本の税制はドイツの税制を参考にして設計されたこともあって、飯塚先生はドイツの税制を深く研究されていた。
映画『不撓不屈』の世界だ!
ぼくも観ましたよ!
松坂慶子がキレイだったことしか覚えてないけど。
(無視)
でも、なんといっても白眉なのは、
アメリカに直接税として所得税が導入された経緯かな。
「第三章 公平課税を求めて」と「第四章 大恐慌の後で」では、「租税を政策手段として用いる」ことに注目して、フランクリン・ローズヴェルト大統領のニューディール税制が「アメリカ租税史上、最も革命的だった」(167頁)ことが述べられる。
所得税の導入にあたっての民主党と共和党の政治的な駆け引きとか、ここは読み物としても面白いところだ。
ひとつ聞いていいスか。
佐藤さん、「ハクビ」ってなんスか?
そこはどうでもいいところだ。
あとで国語辞書を引きなさい。
あと、個人的には租税思想史上の重要な論文を知れたのがうれしかった。
シュンペーターの『租税国家の危機』とか。
これ、岩波文庫で翻訳出てたけどもう絶版だった。
島本町立図書館にも、高槻図書館にもなかった。
さっそく大阪府立図書館から取り寄せたよ。
さらに「第五章 世界税制史の一里塚」、「第六章 近未来の税制」になると、
トービン税、EU金融取引税、グローバルタックスなど、話はもっと大きくなっていく。
ここら辺は顧問先のほとんどが個人事業主や中小企業であるわれわれにはちょっと縁遠い話だけど、
これはこれで興味深い話である、といえるのかもしれない。
あれ、なんか歯切れわるいっスね。
正直、このあたりはまだうまく消化できてないんだ。
初めて知る用語や考え方がいっぱいあって・・・。
でも、実は一番読んでて面白かったのは、
「あとがき」の近現代日本の税制史かな。
7頁とかなり短いながらも、1877年の所得税導入から始まり、
2013年度の税制改正まで簡潔に概観してあってすごく勉強になった。
しかも、単なる概観にとどまらず、鋭い批判も述べられている。
「戦後日本の税制改革の特徴は、自民党の長期政権下で党税制調査会が絶大な権限をもち、インナーと呼ばれる数名の税制に精通した長老議員の主導下に行われてきた点にある。しかし、その内実はといえば、自民党に毎年上がってくる各利害集団からの細かい減税要求を精査し、何をどれくらいの規模でばら撒き、実現するかを決めていく利害調整にほかならなかった。(299頁)」
なるほどねえ。
そして、諸富先生は2012年に進められた三党合意に基づく
「社会保障・税一体改革法案」を評価するんだけど、
政権復帰した自民党の安倍政権による2013年度税制改正は
元の少数のインナーによる決定方式に戻り、経済活性化のための減税措置の羅列となってしまったと批判する。
「租税特別措置の多用は、狙ったところに政策効果を確実に及ぼすという点では、租税政策の効果を高めるが、他方ではそれは政府による恣意的な産業統制を強めることにつながる。なによりもそれは、恩恵を受ける産業分野への利益供与と紙一重である。公共事業や農業補助金だけでなく、租税政策の面でも、集票と利益供与の交換が行われているとみることができるのだ。(300-301頁)」
結構ズバッと言っちゃってるね。
そうなんだよ。
でも、これは上からの言い方になるけど、すごくわかりやすい文章でしょ?
それもこの本が売れた理由の一つかな。
はじめにも言ったけど、とにかく読みやすいんだよ。
ひとつケチをつけるとすれば、索引がないことかな。
索引がついていれば、完璧だった。
わかった、読み終わったらその本貸してください!
最後の7ページだけ読みます!
まあ、それでもいいか・・・。
それにしても、なんかほとんど内容については説明できなかったなあ。
【最後にまとめ】
本書は経済学者による租税思想史で、実務への即効性はあまりありません・・・。
しかし、世界史をたどりながら税制の成立・根本について考えることができ、とても勉強になりました。
去年からずっと読みたかった本で、繁忙期前に読了及びまとめることができてよかったです!
【スタッフ: 佐藤龍】