ホーム ≫ 【本の紹介】『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)

【本の紹介】『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)

【本の紹介】『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)

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『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)  

 

【まとめ】

今年4月のパナマ文書漏洩事件を受け、翌月5月に出版されたパナマ文書解説本。

著者はこの問題を長く研究している経済評論家で、

国際的な租税回避問題の経緯・背景をコンパクトに、しかし急所を抑えることができる。  

 

今年も残すところあと2ヶ月となりました。

1人の会計事務所職員として2016年を振り返るならば、 今年はリオ・オリンピックの年ではなく、

「パナマ文書」の年だった、というべきなのでしょう。

今回はこの「パナマ文書」に関する本を紹介します。

 

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『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(渡邉哲也、徳間書店、2016年)  

 

パナマ文書とは、パナマにある「モサック・フォンセカ」(Mossack Fonseca)という法律事務所によって

作成されたもので、 これにはこの事務所が関わる1970年台からの40年にもおよぶ、

オフショア金融センターを利用する企業や人の取引情報が記載されています。

漏洩したのは4月ですが、この本の出版は5月。

いくらなんでもこの出版は早すぎる!…と思っていましたが、それには理由がありました。

著者の「おわりに」から引きます。

 

 パナマ文書が報じられた際の私の印象は「何を今さら、でもついにやるのか」であったといえる。メルマガの情報発信と著作の情報集めのため、日々、海外メディアソースとOECDやG20などの声明やレポートなどを定点観測してきた私にとっては、すでに古い話であったのだ。であるから、FATFなどの規制強化は過去の著作に頻繁に出てきた話なのである。

 

   じつはこの問題、2008年のリーマンショック前後から対策が進められており、2013年7月19日にOECDが「税制の隙間を塞ぐ:OECD、税源侵食と利益移転に関する行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)を開始」と発表した時点で答えが見えていたからである。しかし、一気に進めれば経済的マイナス影響も強くなるため、段階的に進められてきただけなのである。 (本書203頁)

 

 世界的な趨勢としては、このような情報がいつ流出してもおかしくない状況だったようですね。

ここまで言い切ってしまうだけあって、本書はコンパクトにこの問題の背景・経緯がまとめられており、

短時間で学ぶことができました。

 その一方で、「ダブル・アイリッシュ」「ダッチ・サンドイッチ」などの具体的な租税回避の方法についての

簡単な説明もあるため、この問題についての基本的な知識を得ることができます。

 

 パナマ文書の漏洩が重要なのは、

この文書の内容が単に租税回避のスキャンダルに係るものだからでなく、

国際的なマネーロンダリング問題、特にテロ資金供与についての情報だからです。

この方面については、1989年の設立以来、

FATF(金融活動作業部会:Financial Action Task Force on Money Laundering)が

くり返し各国に情報公開などの勧告を行ってきました。

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<FATFの勧告、イメージ>

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、日本でも水面下では問題になっていました。

有名なところでは、武富士の相続税問題。  

 

 武富士元会長が「ダッチサンドイッチ」と呼ばれる手法により、

1998年に行った相続税の租税回避行為について、 国税庁が最高裁で敗訴(2011年)した事件です。

これ以降、法律が大きく改正され、逃げられない仕組みが構築されつつあります。

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逃げられないゾ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえば、2013年末以降、毎年12月31日時点で5000万円をこす海外資産を持つ個人は、申告義務を負うようになった。申告漏れが見つかったり、国外財産調書に記載がない場合には加算税の課税率が5%高くなる。また、虚偽記載や意図的に提出しなかった場合などには、1年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。もちろん刑事罰であるから、罰金は軽くても家宅捜査の対象となりうる。  

 

 さらに、2015年7月1日からは、国外転出するときに1億円以上の有価証券などを所有している者は、その含み益に所得税の課税が行われることになったため、確定申告が必須となった。また、同じく1億円以上の有価証券などを所有している資産家が、国外に居住する親族などに有価証券等の贈与を行う場合にも、課税対象となることが決まり、確定申告の義務が生じることとなった。 (本書29, 30頁)  

 

 とはいえ、日本のメディアではほとんど報じられておらず、大手の新聞社でも2015年ころまで仲介する法律事務所の提灯記事を書いており、これと並行して一部のコンサルタントなどが相続対策と称して、顧客の無知を利用しタックスヘイブンを利用したスキームを高い値段で売りつけていたわけである。  

 

 本書で述べているように、タックスヘイブンを利用した租税回避は2014年の確定申告から海外資産5000万円以上の申告義務が始まり、2015年7月に「国外転出時課税制度」(通称、出国税)が開始された時点でスキームとしては終わっている話でしかない。 (204頁)

 

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終わってるゾ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個人的には、国内動向が世界の動向の影響を受けていることが興味深かったです。

近年の税制改正が、「発展・拡大」の方向ではなく、

「インバウンド・囲い込み」の方向を向いていると感じていましたが、

FATFのような世界的な動向を知り、深く納得しました。

BEPSの問題に取り組むためには、まず国内の資産・所得を把握することが必要ということでしょう。

近年、富裕層への監視が強化されているのもこれを裏付けていると思われます。

本書と合わせて、 志賀 櫻氏の『タックス・ヘイヴン -消えていく税金』(岩波新書、2014)なども合わせて読むと、

この問題について理解が深まるのではないでしょうか。 

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志賀 櫻氏の『タックス・ヘイヴン -消えていく税金』(岩波新書、2014)

 

(スタッフ: 佐藤 龍)

【GW直前!】 大西順子、高槻急襲! プリンスと『よつばと!』文化賞受賞に寄せて

【 難波事務所 ある日の昼休み 】

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佐藤: うちにリアル「よつば」がいます。  

松永

松永: あなたに「松」のサービスを。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

(ある日の難波事務所お昼休み。不審な動きをしている佐藤。見るからに怪しい。) 

 

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あれ? なんかそわそわしてません? なんか動きが怪しいですよ~。

昼休みなんだから昼寝でもしたらどうすか。 昼寝、スペイン語ならシェスタ。

 

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昼寝なんかしてられるか!

これ見てよ! 難波事務所も協賛している「高槻 ジャズストリート 2016」、

今年はなんと大西順子1)が来るんだぞ!

5月3日現代劇場大ホール、20時から。

今回はトリオでの参加だね。

わたしは万障繰り合わせて聴きにいくつもり。

 

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 へー・・・。

 

 

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っていっても、ジャズに興味なければなんのことかわからないよね。

大西順子はジャズ・ピアニスト。

「美人ピアニスト」なんて紹介されるときもあるけど、その音楽を聴けば、そんな紹介の言葉が恥ずかしく感じられるだろう。

 

大西順子

 

 

 

 

 

 

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 左腕、長!

 

 

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それは写真の撮り方の問題だ。

そこは注目しなくてよい。

 

わたしは高校の頃にジャズを聴き始めたんだけど、ちょうどそのころ大西順子もデビューした。

今は廃刊になった「スイング・ジャーナル」や廃刊前の「JAZZ LIFE」の表紙を飾ったりして、特集を組まれていたのを覚えている。

 

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(興味なさそうに)なるほど、デビューから好きだった、と。

 

 

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ところが、それがそうでもないんだな。

実は、はじめ聴いたときはよくわからなかったんだ。

ソロはメロディというよりも途切れ途切れのフレーズの連発で、 和音も不協和音的。

取り上げてる曲もセロニアス・モンクやチャールズ・ミンガスなどの半ば現代音楽っぽい曲ばかり。

ビル・エヴァンスを聴いてうっとりしてるような田舎の高校生には理解できなかったんだな。

 

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 はあ。

 

 

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それが、たくさんの音楽を聴いていくうちに、そのすごさがわかってくる。

メロディに頼るのでなく、和音とグルーヴを重視するスタイルをあえて選び取っていることに気づいてからは、

大西順子の音楽にずるずるとハマってしまった。

彼女はモンク、ミンガス、ドルフィー、エリントン、オーネットの曲を好んで演奏するんだけど、その選択、解釈も素晴らしい。

エリントンの「The Shepherd」をカバーしているのには驚いた。

彼らに共通するのは「美しい曲を書き、前衛的なソロをする」というスタイルで、 これは彼女自身のスタイルと重なる。

以前に実物を聴いたのは、京都RAGの東原力哉の音語りでウェイン・ショーターのピノキオを演奏していた。

あれはカッコよかったなあ。

 さらにこれらのミュージシャン達に共通しているのは個人技が注目されがちなジャズというジャンルにあって、

あえてバンドサウンドを追求したことで・・・

・・・って、なんの話だっけ?

 

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終わりましたか佐藤さん。

途中から何言ってるのかわかりませんでした。日本語喋ってくださいよ。

 

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ごめんごめん。

1枚だけ、大西順子のCDを紹介させて。

やっぱり1stの衝撃がすごい。

 

WOW

   かなりゴリゴリです。

  大西順子,『WOW』(1993)

 

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しかし、波があるね、佐藤さんは。

いつももっとテンション低いじゃないすか。

1週間前はなんか落ち込んでたりし。

 

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あれはプリンスの急死(21日:現地時間)を知ったからだよ。

本当にショックだった・・・。

 

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 プリンス???

 

 

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プリンスは、スティーヴィー・ワンダーやジェイムス・ブラウン、マイケル・ジャクソンといったブラック・ミュージックの巨星の1人といっていい。

マイケル・ジャクソンと違って、誰でも知ってるヒット曲が少ないから、

若い世代はよく知らないかも。

誰もが知ってるヒット曲は、「パープル・レイン」「BatDance」くらいかな。

 

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バットダンス、プリンスなんですか。

「農~協~牛~乳」ですね!

 

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よく知ってるね。

さすが隠れ空耳スト。

プリンスは、どちらかというと音楽好きに愛されるミュージシャンかもしれない。

こういうところは偶然にも大西順子と共通しているところだ。

プリンスがいなければ、密室で突き抜けた音楽をつくりだすBECKや、

自己愛をエネルギーに、FUNKをポップスに昇華させた岡村靖幸も存在しない。

 

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(たぶん聴かないと思うけど社交辞令で訊いておこう)

じゃあ佐藤さん、プリンスを聴くとしたら何がいいですか?

 

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1枚選ぶなら『PARADE』かな。

Amazonのレビューとか見ると、わたしと同じ年代のアラフォー世代の熱の入ったコメントでいっぱい。

アイデアもぶっ飛んでるけど、ヘッドホンで聴くと細部までつくりあげられた音響・音像に昇天必至です。

PARADE

セクシージャケット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  PRINCE, 『PARADE』(1986)

 

 

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佐藤さん・・・。

人に紹介するなら、向きを確認してくださいよ。

これ、90度ズレてるじゃないですか。

 

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向きはこれで正しい。

あと、裏側はさらにセクシーだ。

話変わって、今年の手塚治虫文化賞が発表されたね。

 

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もうそんな時期ですか。

僕は芥川賞よりも注目してますよ~。

 

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なんと、今年は『よつばと!』が手塚治虫文化賞の大賞を受賞した(4/27)。

これもうれしいニュースだった。

手塚治虫文化賞はその審査方法に定評があって、

個人的にはこうの史代に出会えたことから毎年その発表を楽しみにしてる。

自分が好きなものが評価されるのを見るのは嬉しいものだね。

ただ、10年間このマンガを読み続けた者からすると、受賞は「いま頃かよ!」という思いだ。

 

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この賞の対象は、「選考年の前年に発行され、読者・選考委員から推薦された単行本」だから、

対象にしたくてもできなかったんじゃないですかね。

作者のあずまきよひこは「筆が遅い」ので有名な人ですから。

 

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もはや、冨樫義博、井上雄彦3)と並んで「筆が寝ている」レベルだよね。

『よつばと!』は去年13巻が出たので、めでたく審査対象となったのだろう。

よかったよかった。

 

よつばと

祝! 大賞受賞!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あずまきよひこ『よつばと! 』(13) (2015)

 

 

『よつばと!』は老若男女、誰もが楽しめるマンガだよ。

ウチにいるリアル「よつば」も楽しく読んでるし、ジジババも楽しんでる。

 

それにしてもGWは忙しくなりそうだ!

2日間高槻ジャズストを駆けずり回るもよし、『よつばと!』を最初から読み直すのもいい。

・・・いや、You Tubeでプリンスの動画を片っ端から見まくるのいいなあ。

 

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いや、僕は勉強しますよ、行政法と民法。

 

 

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最後にいいカッコして・・・。

 

 

 

1) 敬称略です。 

2) 選考委員は、業界の重鎮ではなく「現在の漫画をよく読む人物」が選ばれ、選考委員の審査内容は公開されます。

 3) そういえば、井上雄彦もプリンスのファンだったはずです。

  『SLAM DUNK』作中で流河が自転車に乗りながらウォークマンで聴いていたのも

  プリンスの「NEW POWER GENERATION」でした。

 

【まとめ】

 難波事務所は高槻ジャズストリートを応援しています。 

この1週間、これらのニュースに興奮したのはわたしだけではなかったはずです!

 今回は、サブカル方面の内容に偏ってしまいましたが、 この興奮を共有したかったためです。

佐藤と同じ世代の方(アラフォー世代)ならばわかっていただけると思います!

 

なお、この会話は(半分)フィクションです。

実物の松永はあまりマンガは読みませんし、つぶやくボケはもっと破壊的です。

 

皆さま、有意義な連休をお楽しみください!

 【スタッフ: 佐藤龍】

『知って得する相続税』反響が続々!

 

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【お客様の声!】
『知って得する相続税』、おかげさまでご好評いただいております。
さらになんと! ご購入いただいた方から、嬉しいお声を頂きました!
本当にありがたいお声です。
この本でお伝えしたかったことが、しっかりと伝わっていることが感じられて、本当に嬉しいですね。
ありがとうございました!

 

〔いただいたコメントの内容〕
「税金は難しいというイメージがあり、勉強を始めようとおもっても、ついつい途中で挫折してしまうその繰り返しでしたが、この本は税金の成り立ちや背景から分かりやすく説明されており、非常に身につくような構成になっています。ありがとうございました。」
「簡潔でありながらも具体的に記載されているので、今まで勘違いしていた点に気づくことができたり、新たな気づきがあったりで、楽しく読むことができました。最終章の「税務調査の実際」は、なかなか興味深かったです。わからなくなった時に、さっと見返したらすぐに理解できる、そんな便利な1冊だと思います。」

【本の紹介】【判例】「長崎生保年金二重課税事件」のインパクト

江崎 鶴男

 

 

皆さんこんにちは。

東芝の「不適切会計」事件には驚きましたね。
会計業務に携わるものとして、襟を正す思いです。

脱税・粉飾は確かに大きな事件ですが、租税法には、それ以外にも重要な判例があります。
今回は、そのうちの一つ、「長崎生保年金二重課税事件」を紹介します。

(原審)長崎地裁:平成18年11月7日、福岡高裁:平成19年10月25日、最判:平成22年7月06日

 

 

今年の平成27年の1月1日から、基礎控除額の引下等が盛り込まれた改正相続税法が施行され、

世間では去年から相続税の話題が盛んです。
相続で不動産を取得したときには「時価」で評価されて相続税が課せられて、
その不動産を売却(譲渡)したときも「時価」でその不動産を評価して所得税が課せられます。

さて、皆さんは不思議に考えたことがありませんか?
これは相続税と所得税の二重課税ではないのか、と。

この問題について、租税法では、次のような関係になっています。

 

被相続人死亡時  →  相続税 (一時・偶発的な所得に対する課税。所得税は非課税)

物件売却時    →  所得税 (譲渡所得…被相続人の取得時からのキャピタル・ゲインに対する課税)

 

つまり、相続時に取得した財産に対する所得税は非課税とされており(9条1項16号)、

二重課税にならないような課税体系が構築されていることがわかります。

 

ところが、この体系からこぼれ落ちる課税関係がありました。

それが「年金特約付き生命保険」、一般的に「相続等年金」と呼ばれているものです。

一連の裁判では、この「相続等年金」の毎年の「受取額」と「元本部分の金額」の差額への課税関係が争われました。

結果、国税庁は過去30年にわたって行われていた、毎年の年金額を雑所得の課税対象とする取扱いが誤りであったことを認めました。

実務的な対応として、 最高裁の判例通り、差額部分の一部のみを課税対象とし、

改正法施行日から過去10年分の還付を認めるという、異例の措置が取られたのです。

 

正確には、「更正の請求」の規定通りの5年間に、

「特別還付金」として5年間の請求可能期間(平成12年分~平成17年分)が加えられました。

ただし、この「特別還付金」の請求期間は、改正法施行日の1年後である平成24年6月29日までとなっていますので、

平成27年7月現在では請求は不可能となっております。 ご注意ください。

【参考情報】 特別還付金の支給制度等について(国税庁) 

 

この事件及び判例は、2つの意味でとても大きな事件であると考えられます。

1つ目はその内容です。

上記のように、この裁判は所得税法9条1項16号の解釈に新たな光を当て、

相続税と所得税の関係についての根本的な理解の再考を促しました。
この事件は当時も非常に大きく扱われ、法律雑誌「ジュリスト」でも特集が組まれたほどです。

 

『ジュリスト 生保年金二重課税判例のインパクト 2010年 11/1号』、有斐閣

ジュリスト

ジュリスト、初めて買いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つ目は、原告の立場、裁判の進め方です。
これほどの大きな影響のあった裁判ですが、原告は長崎の一主婦である相続人で、

220,800円の年金の源泉徴収額をめぐるものでした。

当裁判の補佐人となった税理士はその相続を扱った税理士で、税務訴訟専門の事務所のような、数十人の弁護士・税理士が所属するような大きい事務所ではありません。そんな中、担当税理士が「税理士補佐人制度」を積極的に活用して、最高裁の判例まで辿り着いた事件でもあります。
この裁判の過程は実にドラマチック。

最高裁判決に至るまでの逆転劇、市井の税理士の情熱、原告の税理士への信頼などは、

話としても実に興味深いものがあります。
これについては、担当税理士自らの筆によるこちらの本があります。

 

『長崎年金二重課税事件―間違ごぅとっとは正さんといかんたい!』、江崎鶴男、清文社、2010年
(何回読んでも、サブタイトルを正しく書くことができません・・・)

江崎 鶴男

「逆転勝訴」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように、大規模な粉飾や脱税事件ほどの派手さはありませんが、

租税法の事件・判例は、時に一般市民のオカシイ、という判断が、

それまでの慣例を覆すことがよくあります。

このような判例を学ぶことが税務訴訟を学ぶ醍醐味である、と言えます。

 

最後に、所得税法を課税実務からでなく、法律の面から解説する本として、

次の本を紹介します。

 

 

『弁護士が教える 分かりやすい「所得税法」の授業』、木山博嗣、光文社新書、2014年

木山博嗣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この本には、「長崎生保年金二重課税事件」以外にも興味深い判例がたくさん挙げられており、

実際にあった判例を考えながら所得税の課税体系を学ぶことができる本です。

「トクする/ソンする」といった、単なる節税面からではなく、

所得税法を理論的に考えたい方への入門書としてオススメいたします!

【スタッフ 佐藤龍】

【本の紹介】 不動産管理会社との付き合い方を学ぼう。

1[1]

無題3 私は、不動産経営されている大家さんの空室状況について

 少しでも改善できる方法はないのか…

 と、改善方法を探している時にこの本を読みました。

  【私の感想】

  不動産仲介業者と大家さんとの信頼関係が重要と知りました。

 大家さんの心意気も関係しているかも知れませんね…

 

 

無題1

無題2

 

27[1]

 

スタッフ 松永でした (*^-^*)/

 

 

 

【本の紹介】租税法を学ぼう。


【本の紹介】租税法を学ぼう。

『租税法』

『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【まとめ】

「税」を学ぶには、大きく分けて経営学、経済学、法学の3つのアプローチがある。

法学として税を学ぶための視点と、そのための足がかりとなる本を紹介。

紹介する本:

『租税法』(金子宏)

『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』(吉田利宏)

 

【 難波事務所 ある日の昼休み 】

 

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   佐藤    アラフォーで猫好き。

松永

   松永    タバコやめてます。

 

   

 

 

 

 

 

 

  

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 あれ、佐藤さん・・・・・・わからない人ですね、

 読書は健康に悪いって言ってるでしょ!

  速やかに本を読むのは止めなさい!

 

 

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 お、「速やかに」なんて、

 なかなかいい言葉遣いするようになったじゃない。

 でも、この場合は 「『直ちに』止めなさい!」と言ってほしいところかな。

 

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 む・・・ちょっと何言ってるかわからない・・・。

 佐藤さん、日本語でお願いします。

 

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 なんだ、意識して使ったわけじゃないのか。

 「速やかに」、「直ちに」は法律用語だよ。

類語に「遅滞なく」なんてのもある。

法律用語って、普段使わなくて何となくとっつきにくいけど、

意味の違いによって細かく使い分けがされてるので、違いを知ってればその意図するところを正確に理解することができる。

ちなみに、 緊急度の順で

直ちに > 速やかに > 遅滞なく  となってる。

「なんとなく」な言葉のニュアンスじゃなく、緊急度は必ずこの順序で使われる。

そういう話は、この本にたくさん書いてあるよ。

『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(スマホをいじりながら)はい、今日も本の紹介ありがとうございます。

時間のある時に読みたいと思います。

 

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 (・・・こいつ、読む気ないな。)

 話変わるけど、会計事務所の仕事を大学で勉強するなら、

 どの学部にいけばいいと思う?

 

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 そりゃ経営学部でしょ。

  僕も経営学部。ビバ!マネジメント!

 

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 それが一般的な答えだけど、他にも選択肢はあると思うんだな。

 例えば、「財政学」などのマクロ経済学な観点から税を学ぼうと思うなら、

 経済学部、という選択肢もあると思う。

この前紹介した『私たちはなぜ税金を納めるのか』の諸富先生は経済学部の先生だし。

でも、この仕事に一番役に立つのは法学部なんじゃないかな、と最近よく考えるんだ。

 

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また意味のわからないことを・・・。

税理士は経済学部、経営学部。

法学部は行政書士、司法書士、弁護士。

それが世間の常識です。

 

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と、普通は思うだろう。

でも、日本の税制は租税法律主義に基づいて定められているから、

結局、徴税・納税の根拠って、税法という法律なんだな。

法学として税を学ぶ際は「租税法」という分野になる。

この分野での「超」重要文献はこれ。

『租税法 第20版』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 租税法を学ぼうと思うなら、何はなくともこの本を読まなければならない。

 金子『租税法』は憲法学における芦部『憲法』のような本で、

 いわばトランペット吹きにとっての『アーバン』、

 ジャズマンにとってのナベサダ『ジャズスタディ』みたいな本だ。

 

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  『ジャズスタディ』って、まだ読まれてるんですか?

   40年以上も前の本ですよ!

  あれを読んでもアドリブできるようにならないし。 

 

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 妙なところに食いつくな。

 時代遅れになってたり、文句をつけたいところもあるかもしれないけど、

 『ジャズスタディ』は「古典」なの。

バークリー・メソッドを知らなければ、リディクロの革新性も理解できないでしょ。

権威主義的な言い方になるけど、まずは古典を知らなければ個性も革新もありえない。

ついでに言っとくと、『ジャズスタディ』は実践書というよりも理論書だから、

あれを読んでアドリブができるようになるわけじゃない。

ジャズスタディ

 

 

 

 

  バークリー・メソッドの粋が詰まった『ジャズスタディ』。

  表紙の「Sadao Watanabe」のサインがまぶしい。

 

 

そういや、金子『租税法』の初版も40年以上前だし、この2つの古典、

なんか共通するところがあるなあ。

 ちょっと待って・・・あ、すごいこと発見!

金子宏先生1930年生まれの85歳渡辺貞夫さん1933年生まれの82歳!

ほぼ同年代なんだね。

2人とも、激動の1960年代をくぐり抜けた後に、

40代にその分野での古典を著す、と。

まだご存命で、バリバリの現役なのもすごい。

 

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それにしても、この本すごいですね。

厚さ 5.2 センチ、重さは 3 kgありますよ!

2時間ドラマでよく出てくる、「鈍器のようなもの」的な凶器にもなりそうだな~。

 

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なぜこの事務所に体重計があるのか、ということは置いておこう。

本を重さで量る、というのは斬新な発想だね。

この本のすごいところは、「第20版」とあるように、

定期的に版を重ねてアップ・トゥ・デートを怠らないことだ。

この第20版は1ヶ月前の4月に出た本で、相続税の改正ももちろん反映されている。

しかも、問題となる論点はほぼ漏れなく言及されており、この本から芋づる式に辿っていくことができる。

租税法を学ぶなら、とにかく一家に一冊な本なのだ。

 

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(パラパラとめくりながら)

うわ、見事に字ばっかり・・・。 もはやこれは辞書ですね。

うーむ、凶器にも辞書にもなるなんてすごい本だ。

それだけでも価値がありますよ。

 

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 さて、法学として税務を考えると、いろいろ見えてくることがある。

 税理士試験、特に計算の上では、

 税法も通達も同じレベルで勉強するけど、実はこの2つには大きな違いがある。

従業員レクリエーション旅行や研修旅行の非課税基準、

つまり会社の福利厚生費とされるか、従業員の給与とされるかの基準はどこにあったっけ?

 

 そういうのは任せてください。ca82908d6bacfb6fd5ff89ef8e9b9632-150x150

旅行期間が4泊5日以内なら会社費用でしょ。

 

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お、よく知ってるね、その通り。 

もう一つ、「従業員の参加割合が50%以上」というのもあるけど、

この4泊5日という基準も、実は有名な判例を踏まえてると思われるんだな。

≪「ハワイ5泊6日事件」(岡山地裁昭和54年7月18日判決)≫ ・・・給与所得として課税

≪「香港2泊3日事件」(大阪高裁昭和63年3月31日判決)≫  ・・・給与所得として非課税

 

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「香港2泊3日事件」・・・なんか2時間ドラマみたいな名前ですね。 

そうか、ハワイは課税されちゃうけど、香港なら非課税なんですね。

 

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期待通りのボケをどうもありがとう。

場所じゃなくて、宿泊日数に注目してね。

まあ、1人あたりの費用も、

ハワイ事件は18万円強、香港事件は6万円という違いもあったので、

日数の違いだけが課税/非課税の判決の根拠となったわけではないだろうけど、現通達( 昭和63年5月25日)の4泊5日というのは、この2つの判例を意識してると考えられるよね。

でも、最近では「マカオ2泊3日事件」(東京地裁平成24年12月25日)なんてのもあって、なんとこれは給与所得として課税

もっとも、これは1人当たりの費用は24万円を超えていたから、課税という判決も納得できるところかな。

というように、細かい通達一つを考えても、判例を知るのは勉強になるよ。

 

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佐藤さん、一つ聞いていいスか?

「箱根湯けむり源泉徴収事件」とかないんスか?

 

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そんなものはない。

テキトーなこと言うのは止めなさい。話がややこしくなるから。

 

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 じゃあ、「マカオのオカマ」。

 回文ですよ、これは。

 

 

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 ・・・「じゃあ」の意味がわからない。

 そんなら、「宇津井健氏は神経痛」。 これならどうだ。

 

 ・・・本当はまだ他にも紹介したい本があるんだけど、

とりあえず今日はこのあたりでおしまい。

 

 【最後にまとめ】

よく、「町のなんでも屋」、「中小企業の社長のもっとも身近な相談相手」とも称される税理士ですが、主に数字を扱うイメージが強いせいか、

「法律家」という面が軽視されがちです。

最近は、過去の判例などを参考に、租税法を研究しています。

条文や判例の読み方・解釈の方法について、興味のある方は今回挙げた本などをご参考ください。

あと、『ジャズスタディ』は名著だと思います。

バークリー・メソッド万歳。

金子宏『租税法』は5,800円、

ナベサダ『ジャズスタディ』は3,800円(それぞれ税抜価格)。

本にしては少し高い値段ですが、コストパフォーマンスは期待できます!

それぞれ、この分野では一家に一冊、そして一生ものの本です!

 【スタッフ: 佐藤龍】

 

 

【本の紹介】『私たちはなぜ税金を納めるのか ―租税の経済思想史』、諸富徹

『私たちはなぜ税金を納めるのか ―租税の経済思想史』、諸富徹、新潮選書、2013年

 

私たちはなぜ税金を納めるのか

 

 

 

 

 

 

 

 
 

 

 

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

 

 

【まとめ】

経済学者による租税思想史。

実務への即効性はないが、世界史をたどりながら税制の成立・根本を理解することができる。

 

【 難波事務所 ある日の昼休み 】

 

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   佐藤    アラフォーで猫好き。

松永

   松永    タバコやめます。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

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 あれ、佐藤さん、なに読書なんてしてるんでスか?

 読書なんて健康に悪いですよ~。秋なんだからカラダ動かさなくちゃ。

 

 

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 余計なお世話だよ。

 松永さんこそ、若い時に本を読む癖をつけとかないと

 取り返しがつかないことになるぞ。

まあ、せっかくだから、いま読んでる本を簡単に紹介しとこうか。

この本、知ってる? 結構話題になったから、読んだことはなくても題名は耳にしたことないかな?

 

私たちはなぜ税金を納めるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書) 

 

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 『私たちはなぜ税金を納めるのか』・・・

 ・・・見たことあるような無いような・・・

いや、確かに題名はどこかで聞いたことがあるような気もしないわけじゃありません。

 

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 ・・・つまり知らないってことね。

 ビジネス関係のメディアはもちろん、

 一般書のコーナーでも折に触れて取り上げられてたよ。

新聞の書評でも取り上げられてたと思うけど。


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 ふ~ん。なんででしょうね。

 

 

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 出版のタイミングもよかった、というのは大きいと思うな。

 去年の2013年とは、消費税8%への増税を目前に控え、

相続税増税が巷の話題に上り始めた時期。

この本が売れたのは、世間の税一般への関心が高まってきた、そういう背景もあっただろう。

あと、文章が読みやすいんだよね。

学者の先生が書いた学術書だし、内容も節税とか実務とは直接関係ないんだけど、読みやすい文章なんだ。

 

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 でも、『私たちはなぜ税金を納めるのか』って・・・

 ・・・義務だからでしょ? 佐藤さん、そんなのも知らなかったんすか?

 

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 話はそんなに簡単じゃないぞ。

 それなら「なぜ税金を納めなければならないのか」になるはずでしょ。

 で、まさにこの本の主題はそこなんだ。納税は「権利」なのか、「義務」なのか。

 

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 うわー、「国民ひとりひとりが納税者意識をもて」とかそういう話ですか?

 そういうの面倒だからいいですわ。

会計事務所の仕事とは関係ないような・・・。

顧問先にとっては、抽象的な理想論を訴えられるよりも、

実務の処理を正確に素早くこなしてもらう方がうれしいんじゃないですかね。

 

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 それはそのとおり。

 でも、難波所長もよく雑談で話してるじゃない。

 「相続税は日露戦争の戦費調達が目的で導入された」とか。

正しい処理だけじゃなくて、税金について幅広い話題を提供するのもお客様に喜ばれると思うけどな。

ところで、国民の3大義務って知ってる?

 

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 バカにしてるんでスか、佐藤さん。 

 「勤労」、「教育」、「納税」。

それくらい知ってますよ。

 

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 そんなにイバラれてもなあ。

 「教育」は、正しくは「こどもに教育を受けさせる義務」だけど。

 さすが小中学校で習ったことはよくおぼえてるね。

義務と権利の対応関係からわかるように、一応納税は「義務」とされている。

しかし、世界の税制の歴史を見てみると、これは「権利」としての側面も色濃くある、というのがこの本のテーマなんだな。

それは、この本の題名が「納めなければならないのか」でなく、「納めるのか」となっているところに端的に表れている。

 

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 相変わらず細かいな~。

 

 

【章の構成・内容の概観】

 

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で、「第一章 近代は租税から始まった」。

近代の始まりは租税の始まりと同義と言えるんだけど、

そもそもの始まりはイギリスに遡る、と。

 

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 「マグナ・カルタ」でしょ!

 初めて聞いたとき、でっかいカルタを想像しちゃいましたよ。

「マグナム・カルタ」。なんちゃって。

 

Magna-Charta (1)

マグナ・カルタ(大憲章)  「マグナム」ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・イギリスとドイツの対比は面白い。

「納税」とは、市民革命後のイギリスでは「権利」だけど、

19世紀のドイツでは「義務」と考えられることが多かった。

日本の税制はドイツを模範にしているから全体国家的要素が色濃くある、

とはよく言われることだけど、そのあたりも「第二章 国家にとって租税とは何か」で説明される。

ちょっと脱線するけど、「ドイツの税制」というと、泣く子も黙るTKCの創始者、飯塚毅先生のことを連想するね。

日本の税制はドイツの税制を参考にして設計されたこともあって、飯塚先生はドイツの税制を深く研究されていた。

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 映画『不撓不屈』の世界だ!

 ぼくも観ましたよ!

松坂慶子がキレイだったことしか覚えてないけど。

 

2006年の映画。 飯塚毅先生は滝田栄さんが演じられました。

2006年の映画。
飯塚毅先生を演じたのは滝田栄さん。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 (無視)

 でも、なんといっても白眉なのは、

 アメリカに直接税として所得税が導入された経緯かな。

第三章 公平課税を求めて」と「第四章 大恐慌の後で」では、「租税を政策手段として用いる」ことに注目して、フランクリン・ローズヴェルト大統領のニューディール税制が「アメリカ租税史上、最も革命的だった」(167頁)ことが述べられる。

所得税の導入にあたっての民主党と共和党の政治的な駆け引きとか、ここは読み物としても面白いところだ。

 

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 ひとつ聞いていいスか。

 佐藤さん、「ハクビ」ってなんスか?

 

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 そこはどうでもいいところだ。

 あとで国語辞書を引きなさい。

 

あと、個人的には租税思想史上の重要な論文を知れたのがうれしかった。

シュンペーターの『租税国家の危機』とか。

これ、岩波文庫で翻訳出てたけどもう絶版だった。

島本町立図書館にも、高槻図書館にもなかった。

さっそく大阪府立図書館から取り寄せたよ。

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1918年の論文。     邦訳は1983年(絶版)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに「第五章 世界税制史の一里塚」、「第六章 近未来の税制」になると、

トービン税、EU金融取引税、グローバルタックスなど、話はもっと大きくなっていく。

ここら辺は顧問先のほとんどが個人事業主や中小企業であるわれわれにはちょっと縁遠い話だけど、

これはこれで興味深い話である、といえるのかもしれない。

 

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 あれ、なんか歯切れわるいっスね。

 

 

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 正直、このあたりはまだうまく消化できてないんだ。

 初めて知る用語や考え方がいっぱいあって・・・。

 でも、実は一番読んでて面白かったのは、

「あとがき」の近現代日本の税制史かな。

7頁とかなり短いながらも、1877年の所得税導入から始まり、

2013年度の税制改正まで簡潔に概観してあってすごく勉強になった。

しかも、単なる概観にとどまらず、鋭い批判も述べられている。

 

「戦後日本の税制改革の特徴は、自民党の長期政権下で党税制調査会が絶大な権限をもち、インナーと呼ばれる数名の税制に精通した長老議員の主導下に行われてきた点にある。しかし、その内実はといえば、自民党に毎年上がってくる各利害集団からの細かい減税要求を精査し、何をどれくらいの規模でばら撒き、実現するかを決めていく利害調整にほかならなかった。(299頁)」

 

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 なるほどねえ。

 

 

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 そして、諸富先生は2012年に進められた三党合意に基づく

 「社会保障・税一体改革法案」を評価するんだけど、

 政権復帰した自民党の安倍政権による2013年度税制改正は

元の少数のインナーによる決定方式に戻り、経済活性化のための減税措置の羅列となってしまったと批判する。

 

「租税特別措置の多用は、狙ったところに政策効果を確実に及ぼすという点では、租税政策の効果を高めるが、他方ではそれは政府による恣意的な産業統制を強めることにつながる。なによりもそれは、恩恵を受ける産業分野への利益供与と紙一重である。公共事業や農業補助金だけでなく、租税政策の面でも、集票と利益供与の交換が行われているとみることができるのだ。(300-301頁)」

 

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 結構ズバッと言っちゃってるね。

 

 

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そうなんだよ。

でも、これは上からの言い方になるけど、すごくわかりやすい文章でしょ?

それもこの本が売れた理由の一つかな。

はじめにも言ったけど、とにかく読みやすいんだよ。

ひとつケチをつけるとすれば、索引がないことかな。

索引がついていれば、完璧だった。

 

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 わかった、読み終わったらその本貸してください!

 最後の7ページだけ読みます!

 

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まあ、それでもいいか・・・。

それにしても、なんかほとんど内容については説明できなかったなあ。

 

 

【最後にまとめ】

本書は経済学者による租税思想史で、実務への即効性はあまりありません・・・。

しかし、世界史をたどりながら税制の成立・根本について考えることができ、とても勉強になりました。

去年からずっと読みたかった本で、繁忙期前に読了及びまとめることができてよかったです!

 【スタッフ: 佐藤龍】

私たちはなぜ税金を納めるのか 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

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