【本の紹介】租税法を学ぼう。

『租税法』
【まとめ】
「税」を学ぶには、大きく分けて経営学、経済学、法学の3つのアプローチがある。
法学として税を学ぶための視点と、そのための足がかりとなる本を紹介。
紹介する本:
『租税法』(金子宏)
『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』(吉田利宏)
【 難波事務所 ある日の昼休み 】
あれ、佐藤さん・・・・・・わからない人ですね、
読書は健康に悪いって言ってるでしょ!
速やかに本を読むのは止めなさい!
お、「速やかに」なんて、
なかなかいい言葉遣いするようになったじゃない。
でも、この場合は 「『直ちに』止めなさい!」と言ってほしいところかな。
む・・・ちょっと何言ってるかわからない・・・。
佐藤さん、日本語でお願いします。
なんだ、意識して使ったわけじゃないのか。
「速やかに」、「直ちに」は法律用語だよ。
類語に「遅滞なく」なんてのもある。
法律用語って、普段使わなくて何となくとっつきにくいけど、
意味の違いによって細かく使い分けがされてるので、違いを知ってればその意図するところを正確に理解することができる。
ちなみに、 緊急度の順で
直ちに > 速やかに > 遅滞なく となってる。
「なんとなく」な言葉のニュアンスじゃなく、緊急度は必ずこの順序で使われる。
そういう話は、この本にたくさん書いてあるよ。
(スマホをいじりながら)はい、今日も本の紹介ありがとうございます。
時間のある時に読みたいと思います。
(・・・こいつ、読む気ないな。)
話変わるけど、会計事務所の仕事を大学で勉強するなら、
どの学部にいけばいいと思う?
そりゃ経営学部でしょ。
僕も経営学部。ビバ!マネジメント!
それが一般的な答えだけど、他にも選択肢はあると思うんだな。
例えば、「財政学」などのマクロ経済学な観点から税を学ぼうと思うなら、
経済学部、という選択肢もあると思う。
この前紹介した『私たちはなぜ税金を納めるのか』の諸富先生は経済学部の先生だし。
でも、この仕事に一番役に立つのは法学部なんじゃないかな、と最近よく考えるんだ。
また意味のわからないことを・・・。
税理士は経済学部、経営学部。
法学部は行政書士、司法書士、弁護士。
それが世間の常識です。
と、普通は思うだろう。
でも、日本の税制は租税法律主義に基づいて定められているから、
結局、徴税・納税の根拠って、税法という法律なんだな。
法学として税を学ぶ際は「租税法」という分野になる。
この分野での「超」重要文献はこれ。

『租税法 第20版』
租税法を学ぼうと思うなら、何はなくともこの本を読まなければならない。
金子『租税法』は憲法学における芦部『憲法』のような本で、
いわばトランペット吹きにとっての『アーバン』、
ジャズマンにとってのナベサダ『ジャズスタディ』みたいな本だ。
『ジャズスタディ』って、まだ読まれてるんですか?
40年以上も前の本ですよ!
あれを読んでもアドリブできるようにならないし。
妙なところに食いつくな。
時代遅れになってたり、文句をつけたいところもあるかもしれないけど、
『ジャズスタディ』は「古典」なの。
バークリー・メソッドを知らなければ、リディクロの革新性も理解できないでしょ。
権威主義的な言い方になるけど、まずは古典を知らなければ個性も革新もありえない。
ついでに言っとくと、『ジャズスタディ』は実践書というよりも理論書だから、
あれを読んでアドリブができるようになるわけじゃない。
バークリー・メソッドの粋が詰まった『ジャズスタディ』。
表紙の「Sadao Watanabe」のサインがまぶしい。
そういや、金子『租税法』の初版も40年以上前だし、この2つの古典、
なんか共通するところがあるなあ。
ちょっと待って・・・あ、すごいこと発見!
金子宏先生は1930年生まれの85歳、渡辺貞夫さんは1933年生まれの82歳!
ほぼ同年代なんだね。
2人とも、激動の1960年代をくぐり抜けた後に、
40代にその分野での古典を著す、と。
まだご存命で、バリバリの現役なのもすごい。
それにしても、この本すごいですね。
厚さ 5.2 センチ、重さは 3 kgありますよ!
2時間ドラマでよく出てくる、「鈍器のようなもの」的な凶器にもなりそうだな~。
なぜこの事務所に体重計があるのか、ということは置いておこう。
本を重さで量る、というのは斬新な発想だね。
この本のすごいところは、「第20版」とあるように、
定期的に版を重ねてアップ・トゥ・デートを怠らないことだ。
この第20版は1ヶ月前の4月に出た本で、相続税の改正ももちろん反映されている。
しかも、問題となる論点はほぼ漏れなく言及されており、この本から芋づる式に辿っていくことができる。
租税法を学ぶなら、とにかく一家に一冊な本なのだ。
(パラパラとめくりながら)
うわ、見事に字ばっかり・・・。 もはやこれは辞書ですね。
うーむ、凶器にも辞書にもなるなんてすごい本だ。
それだけでも価値がありますよ。
(無視)
さて、法学として税務を考えると、いろいろ見えてくることがある。
税理士試験、特に計算の上では、
税法も通達も同じレベルで勉強するけど、実はこの2つには大きな違いがある。
従業員レクリエーション旅行や研修旅行の非課税基準、
つまり会社の福利厚生費とされるか、従業員の給与とされるかの基準はどこにあったっけ?
そういうのは任せてください。
旅行期間が4泊5日以内なら会社費用でしょ。
お、よく知ってるね、その通り。
もう一つ、「従業員の参加割合が50%以上」というのもあるけど、
この4泊5日という基準も、実は有名な判例を踏まえてると思われるんだな。
≪「ハワイ5泊6日事件」(岡山地裁昭和54年7月18日判決)≫ ・・・給与所得として課税
≪「香港2泊3日事件」(大阪高裁昭和63年3月31日判決)≫ ・・・給与所得として非課税
「香港2泊3日事件」・・・なんか2時間ドラマみたいな名前ですね。
そうか、ハワイは課税されちゃうけど、香港なら非課税なんですね。
期待通りのボケをどうもありがとう。
場所じゃなくて、宿泊日数に注目してね。
まあ、1人あたりの費用も、
ハワイ事件は18万円強、香港事件は6万円という違いもあったので、
日数の違いだけが課税/非課税の判決の根拠となったわけではないだろうけど、現通達( 昭和63年5月25日)の4泊5日というのは、この2つの判例を意識してると考えられるよね。
でも、最近では「マカオ2泊3日事件」(東京地裁平成24年12月25日)なんてのもあって、なんとこれは給与所得として課税。
もっとも、これは1人当たりの費用は24万円を超えていたから、課税という判決も納得できるところかな。
というように、細かい通達一つを考えても、判例を知るのは勉強になるよ。
佐藤さん、一つ聞いていいスか?
「箱根湯けむり源泉徴収事件」とかないんスか?
そんなものはない。
テキトーなこと言うのは止めなさい。話がややこしくなるから。
じゃあ、「マカオのオカマ」。
回文ですよ、これは。
・・・「じゃあ」の意味がわからない。
そんなら、「宇津井健氏は神経痛」。 これならどうだ。
・・・本当はまだ他にも紹介したい本があるんだけど、
とりあえず今日はこのあたりでおしまい。
【最後にまとめ】
よく、「町のなんでも屋」、「中小企業の社長のもっとも身近な相談相手」とも称される税理士ですが、主に数字を扱うイメージが強いせいか、
「法律家」という面が軽視されがちです。
最近は、過去の判例などを参考に、租税法を研究しています。
条文や判例の読み方・解釈の方法について、興味のある方は今回挙げた本などをご参考ください。
あと、『ジャズスタディ』は名著だと思います。
バークリー・メソッド万歳。
金子宏『租税法』は5,800円、
ナベサダ『ジャズスタディ』は3,800円(それぞれ税抜価格)。
本にしては少し高い値段ですが、コストパフォーマンスは期待できます!
それぞれ、この分野では一家に一冊、そして一生ものの本です!
【スタッフ: 佐藤龍】