今年11月の受験を目指して、行政書士の勉強を進めているのですが、先日、「行政書士試験対策講座」の民法のテキストに、こんな一文が出てきました。
「保険金の受取人を『相続人』と指定している場合の生命保険・傷害保険の保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人の固有の財産となり、相続財産とならない。」(最高裁判決:昭和40.2.2)
この、保険の持つ性格は、相続対策を考える際にとても大きな役割を果たします。当事務所の『知って得する相続税』でも、「生命保険を利用した相続対策」の項目で、以下のように生命保険の上手な活用をお勧めしています。
「…第3のメリットは、争族対策にも利用できるということ。
…生命保険の受取人は、契約者(被相続人)が自由に指定することができますから、被相続人の生前の意思通りに相続人にお金を渡すことができます。
しかも、民法上、生命保険金は受取人固有の財産であるため、遺産分割の対象にならず、被相続人の死後、争いが起こる余地がありません。」
(『知って得する相続税』115-116頁)
相続財産の場合、遺言がなければ相続人が協議して、すべての財産についてそれぞれの相続分を取り決め、「遺産分割協議書」に明記して分割しなければなりません。
しかし、上記のように受取人が指定された場合の「保険金」は、受取人の固有の財産であり、相続財産ではないため、遺産分割の対象となりません。
したがって、『知って得する相続税』でも指摘したように、生命保険金の受取人としてその相続人を指定しておけば、遺産分割協議の対象となることなく、その相続人に確実にお金を残すことができます。(現金が懐に入るところも大きなポイントです。)
ところで、多額の保険契約を結び、特定の受取人(相続人)に対してだけ多くの財産を渡した場合、どうなるのでしょうか。
この場合、受取人となった相続人があまりにも有利となり、相続人間で不公平をもたらすことになります。そこで、これを「特別受益」として各人の相続分を計算するときに考慮すべきという考え方があります※1。(最高裁判決:平成16.10.29)
※1 ただし、過去の事例で判決は分かれています。
あまりにも不公平性が大きい場合は、特別受益にあたるとして相続財産に持ち戻して考える場合がある、という点には注意が必要です。
【判例紹介】
★最高裁昭和40年2月2日判決
保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。
……
保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当である。
★最高裁平成16年10月29日判決
死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産(特別受益財産)には当たらないと解するのが相当である。
もっとも,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。
【スタッフ:松下】